2012年12月10日月曜日

夢幻

天井の 一点のしみが ひろがっていく  

やがて それは 壁を伝い

白い 炎となって 燃え上がる

炎は 私の頬をなで せなかをなめ尽くし

両の手の先から めらめらと たちのぼる

私は はてしない 夢幻のなかを たゆたい

そして

突然 夜のただなかに おとされた

2012年11月29日木曜日

じょうど

ながい闇をぬけて 

舟は 青い川面を すべってゆく



遠くに 白い丘が みえてきた

小さな花も草も 霜をまとったよう

丘の上には 幾人ものひとが ならんでいて

女のひとだろうか 男のひとだろうか

老人だろうか まだ子どもだろうか

みな きよらかな

透き通るような ほほえみをうかべ

たたずんでいる

ながい衣の裾は かすかな風にも

揺らぐことは ない 

ああ

ここが 浄土という ところなのだ

あの 人たちにくらべ

わたしは なんと  なまなましく

醜いことだろう

2012年10月13日土曜日

秋庭

そっとつまんだ指先で

線香花火は 身を捩る

ちちっ ちちっ

ぽとりと落ちて 闇がうまれる

また

ぽとりと落ちて 闇がうまれる

2012年9月16日日曜日

風の又三郎

また この季節がめぐって来た 

  どっどど どどうど どどうど どどう
  
  ああまいりんごも吹きとばせ

  すっぱいりんごも吹きとばせ

  どっどど どどうど どどうど どどう

風の又三郎の冒頭の文章

又三郎は 九月一日 谷川の岸の小さな学校に 

風のようにあらわれ そして 去っていく

小学生のとき この本に出会った私は 

たちまち 魅了された

何度 読み返したことだろう

眼を閉じると 髪はさわさわと波立ち

胸は どきどきと 高鳴った

たかい空 風のにおいに 秋の訪れを感じた


いつまで 暑さがつづくのか

空を見上げても 又三郎は まだ やって来ない

だが本だけは 本棚の中に しっかりと

存在を 示している

2012年6月29日金曜日

日常

朝刊を配るバイクの音

走り始める車

小鳥のさえずり

出勤する娘の足音

庭を掃く気配

アトリエのパソコンの音

珈琲の香り

洗濯機のまわる音

登校途中の自転車のベル

やわらかな日差し

庭の夏椿

田んぼを渡る風

飛び立つ白鷺の群れ

ベランダで呼ぶ猫の声

長くなる影

男の子達の甲高い笑い声

夕餉の支度

ニュースの声

無責任な政治家の答弁

夕食での話題

シャワーの音

香水の香り

古い写真立ての中の

父のはにかんだ笑顔

時を刻む秒針

明かりのついたアトリエ

今日も一日が終わる

何気ない

日常

2012年6月24日日曜日

風が でた

樹の枝を ざわざわと 揺らす

影が 大きく うねっている

わたしも

揺れて いるようだ

2012年6月18日月曜日

悲しくて

悲しくて

悲しくて

ただ 悲しくて

血が にじむまで

指を 

かんだ

奈落

真っ暗な 大きな穴の中を

頭から 落ちていく感じ

どこまで落ちても

底がない

汗に 背中が濡れて 

ようやく

眼が あいた

2012年5月23日水曜日

診察券

引き出しの中から 診察券が何枚も何枚も 出てきた。

県内の 病院という病院、クリニック、  

みんな私の名前。

病気の私を連れてまわったのだろう。

そのころの記憶を 私は失ってしまった。

でも やっと元気になって、、、思っている。

口下手で いえないけど、

ありがとう。

黒猫

「ママ、みて」

息子の声に眼を向けると、  

猫が ひざの間に スッポリとおさまっている。

「そこが お気に入りなんだね」

「そうなの ルナ?」

息子は嬉しそうに 猫の頭を 両手で包んだ。

猫は 満足げに のどをならしている。

2012年5月12日土曜日

字隠し

さきのとがった石で 地面に 

字 をほる

がりがり こりこり

山 川 火 木 月、、、おぼえたばかりの 字

そうして つちを かぶせて もとどおり

しばらくしてから 行ってみる

そおっと つちをはらいのけ

人差し指で みぞをなぞる

ちょっとドキドキ

日が でてきた

ひとりあそび

2012年4月16日月曜日

うそ

ちいさいころ よくうそをついた

ああだったらいいなあ こうだったらいいなあ

空想は どんどんふくらんで ほんとうに思えてくる

なかよしの幼ななじみは そんなわたしを

「うっそだあ」といって よくわらった

それでもわたしは ごきげんだった

もう

そんなうそを

思いつかない

2012年4月15日日曜日

爛漫

山茶花がさいて 梅がさいて

椿がさいた

サンシュウがさいて 沈丁花が芳しく

姫辛夷に小鳥がかよい れんぎょうがさいた

ゆきやなぎがさいて 木瓜がさいた

子供たちがうえた チューリップがさいて

桜が さいた

木蓮がさいて 牡丹がつぼみをもった

足元に ムスカリ ほとけのざ 

かわいい おおいぬのふぐり

もう 

家の庭は あふれるほど 

春 爛漫

椿

こんな気持ちで 椿をながめるのは 何年ぶりだろう  

家とアトリエを建てて 何もなかった庭に 二人で 椿を植えた  

何種類あるだろうか あんなにだいすきだったのに 名前を思い出せない

藪椿、乙女椿、紅白の絞りのは、、、

あのピンクのはなに?

「西王母だよ」

茶花につかうのはなんだっけ?

「侘助だよ」

図鑑をひらいてみた

加茂本阿弥もあるはず

白玉もあるはず

そう思いながら ぐるっと庭をめぐった

2012年4月14日土曜日

まわる まわる

まわる まわる

ぐるぐる まわる

空が まわる すずめが まわる

木々が まわる

あら ネコが まわる

まわっているのは わ、た、し?

それとも

けしき?

それとも

地球?

それとも

宇宙?
















2012年2月23日木曜日

ペニー レイン

悲しい夢のつづきは

さらに悲しく

わたしを 苛む

そんな 雨の朝は

王彦の描く 絵に

ふっと 頬が ゆるむ

2012年1月20日金曜日

7Fより (2)

鈍色の 石つぶてが こちらに向かって 

飛んできた  

鳩の 一群だった

朝日に いっせいに 羽を翻すと

輝きながら 飛んで いった 

おおきく

銀色の 螺旋を 描きながら

7Fより (1)

窓により 自宅のほうを眺める

北の方角 物質研の三角屋根が 目印だ

家が見える訳ではないが つい そちらに目がいく  

空気は冷たいが 風はなく  穏やかな朝だ  

医学図書館の屋上に 鳩がきた  

朝日の方を向いて とまっている  

もう一羽 きた

少し間隔をおいて とまった

もう一羽きて 真ん中に とまった

しばらくして

ポトン ポトンと 落ちるようにして とんでいった

最初の 一羽だけ 残った